2007年10月03日

海と老人

まったく初対面の人と話をするとき、
一体どういった人物なのか、普通の人なのか、危ない人なのか、
冗談を言っていいのか、どこまで本音を話していいのか、
探りを入れながら会話をしなければなりません。だから疲れます。


10月のなぁーんにもない平日の2時ころ。
人のまばらな新潟の海岸で、たった1人で海を眺めています。
ぼんやりと眺めていると、不意に後ろから声が。
「こんにちは」
えっ、・・・俺に話しかけているのか? そう思いつつ、
砂浜に両手をつき、足を投げ出したままの格好で振り返ります。
そこには見知らぬ老人が立っています。そして挨拶を返します。
「・・・どうも。・・・こんにちは」


「観光の方ですかな? それとも近くにお住まいで?」
「ええ、観光というか、会津からぶらっとドライブがてらに」
「そうですか。今日は暑くもなく過ごしやすい天気ですからな」
「そうですねぇ。言ってみれば絶好のドライブ日和です」
「海がお好きなんですか? 長い時間、見られていたようですが」
「そうですね、好きっていうか、海を見ていると落ち着くので」
「おっしゃるとおりだ。海は雄大で人の心を落ち着かせてくれる。
ところで、あなたが先ほどから、ご覧になっているこの海なんだが」
「・・・はぁ、この海・・・・・・が、なにか?」
「そう。この海は日本海と言いましてな」

分かりきったことを、あらたまって真顔で言われると、とまどいます。
「どうぞ、召し上がれ。冷えてておいしいわよ」
「おいしそうですね。じゃあ遠慮なくいただきます」
「これね、スイカっていうのよ」
スイカを持ったまま動きが止まるのではないでしょうか。
それと同じ状態になるわけです。

『・・・・・・なんか危ないジイさんだな。こんなところに長居は無用』
「よいしょ」
自分が立つより先に、ジイさんが隣に腰を落ろしてきたりするのです。

さて、“この海は日本海”に、とりあえず何か返事をしなければいけません。
なんて返事をすればいいのか。
『このジイさん、・・・・・・どう考えても少しボケてるしな』
相手はボケ老人と決まれば、おのずと対応方法が決まってきます。
とりあえず、言ってくることに同調してあげればいいわけです。

「へぇー、そうなんですか。この海は日本海って言うんですか」
優しく、お礼を述べるかのように言ってあげるのです。
すると、その返答を聞いた老人が、
「えっ? おまえ・・・・・・知らなかったのか? アホなのか?」
そんな顔をしながら自分の顔を覗きこんできたりするのです。
『えっ? 嘘。 ・・・ボケてるんじゃないの? ・・・違ったのか?』

ここで2回目のとまどいを感じます。
『どっちなんだ。まともなのか、ボケているのか。
ボケてないんなら、相手をバカにしたような失礼な返答をしちゃったな。
それより、・・・・・・俺の方がバカ丸出しじゃないか』

老人は、何事もなかったかのように、
「日本では日本海と呼んでいるこの海なんじゃが、
韓国では、この日本海のことを“ドンヘ”と呼んでおるんじゃ」
『えっ? そうなの。・・・俺、知らなかったけれど、“ドンヘ”って言うの?
でも、そう言われてみれば、そんな気が。このジイさん、結構物知りなんだ』
「へぇー、そうなんですか」
「ワシは、韓国に20年ほど住んでいたことがあってな」
黙って、頷きながら聞いているのが無難です。
「日本側から見る、この日本海も美しいが、
韓国から見る、いわば“ドンヘ”も、そりゃ見事なくらい綺麗じゃった」
いつの間にか、話に引きずり込まれている自分に気が付きます。
「戦争かなにかで、韓国に行ってらっしゃったんですか?」

老人は、こちらの質問には答えず、話を続けます。
「竹島。竹島問題について少しは御存知かな?」
「・・・ええ、少しは。どちらの領土かで問題になっている」
「そうじゃ、そうじゃ。その竹島を韓国では“ドクト”と呼んでいるんじゃ」
「その名前は新聞か何かで見たことがあります」

「ドクトには、海牛が飼われていての。その搾りたてのミルクがまたうまい」
『海牛のミルク? 海牛って海の中で生息しているんじゃなかったか?
竹島では海牛が陸上で飼われているっていうのか?
それに竹島って、そんなに広いところだったけか』
「その海牛のミルクを、たぶんこぼれたヤツを一度飲んだんじゃろうな。
毎晩ペンギンのヤツが、ミルク欲しさに空を飛んでやってくるんじゃよ」

『・・・・・・・・・なんだよ、やっぱボケてんじゃん』
posted by 貞吉 at 17:54| Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「10月のなぁーんにもない平日の2時ころ。
人のまばらな新潟の海岸で、たった1人で海を眺めています。ぼんやりと眺めていると・・・」ですって???夏でもないのに、一人で海を見ているなんて、もしやこれから、ニュ、ニュ、ニュ、入水自殺なんてするんじゃなかろうか、と、機転をきかしたおじいさんが、やんわりと、こちらの世界へ、引き戻そうと、はなしかけたんじゃないのでしょうか。私は、そんな風にもとれました。ソンでもって、ぼけたふりして、入水を、忘れさせるために、韓国もちだしたり、自分より、たいへんなひともいるんだってことを、おしえたかったのでは・・なんと、知恵のあるご老人。その人は、きっと、貞吉さんのがーディアンエンジェル、守護天使、だったのか、な。いやいや、スパイだったかもしれない。もうちょっとで、らちされるとこだったかも。
で、なんで、10月に一人で海にいったのよ。まあ、それはいいか。拉致もにゅ、にゅ、にゅもなくてよかったざんす。
Posted by ゴーグリーン at 2008年10月10日 18:29
ゴーグリーンさん、深読みのしすぎです。
自殺の名所、東尋坊で「綺麗だなぁ」と1人でしんみり景色を眺めていると、
「早まるな!」 早とちりした人からヘタなタックルを受け、そのまま崖の下へ。
私を殺さないでください。
Posted by Toゴーグリーン 貞吉 at 2008年10月12日 14:46
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