2013年09月30日

賃金の直接払い

給料は @通貨で A直接労働者に B全額を C毎月1回以上 D一定の日に
支払わなければなりません。 これを賃金支払いの5原則といいます。

「直接労働者にって言うけど、うちの会社は銀行振込なんだけど」
その場合、本人名義の口座以外に振り込むことは許されていません。
実際に銀行口座振込が大半を占めていると思われますが、
まだ、封筒に入れ「ご苦労様」なんて言いながら手渡す会社も多く存在します。
その場合、たとえば工場で働く未成年者がいたとしても、給料日に母親が、
「息子に渡すとすぐに使ってしまいますので、私が代理で受け取ります」
そう言ってきても渡すことは許されていません。
妻が「主人に渡すとギャンブル狂なので」と言ってきても、渡してはいけません。
あくまでも労働者本人に手渡すことが義務付けられています。
受け取りに来たのが、親でも、妻でも、法定代理人であってもです。

さて、この「直接労働者に手渡す」には例外が存在します。
取りに来た者が「代理」ではなく「使者」ならば、渡しても良いとされているのです。
「使者?」と思うのですが、深く学ぼうという気持ちは、まだ私にはありません。
現実的に、あまり有り得ないケースだろうと思われるからです。



「すいません。山本弘の給料なんですが。
本人、休んでいるんで、私が受け取りにきました」
ストライプのスーツに、色シャツは第2ボタンまで外され当然、ノーネクタイ。
首元にネックレスが見え、高価そうな腕時計。サングラスは手に持っています。
総務の人がおそるおそる対応します。
「山本くんの給料を、ですか? 失礼ですが、山本くんの御兄弟様ですか?」
「いいえ、違います」
「……そうですか、失礼しました。といいますか、誰であっても同じなんですが、
給料は直接本人へ、山本くんにしか手渡せないんですよ。
申し訳ないんですが、これは法律、労働基準法で決められていることなもんですから」
「私、山本弘の使者です」
「はい? 使者? 使者……ですか?」
「ええ、そうです。私は山本弘の使者です」

誰がどう見たって、使者と名乗る男は、タチの悪そうな金融業者です。
何も言えない総務担当者に使者を名乗る男が切り込んできます。
「使者なら、山本くんの給与を受け取れるんですよね。御存じですよね。
それこそ、おたくが今言っていた労働基準法で決められていることですから。
山本くん本人から、私が使者であることを証明する書面も受け取ってます」
出された証明書面は、端に拭き取られた後の血のようなシミがあり、
その他、色のないシミもいくつかあり、涙なのでは?と想像されます。
書かれてある文字はヘロヘロ。 印は印鑑と拇印の両方あります。

「本人、山本くんはケガをしちゃいましてね。今、家で寝てるんですワ。
どうしても現金が必要なので、あんたが、私ですけどね、取りに行ってくれと。
言ってみればお使いです。本人の意思の元に使わされた者ということです」
総務としては、こういう事態をシミュレーションしていません。
対抗する言葉が、手段が浮かんできません。
しょうがないので、拇印で捺印してもらい、給料を手渡すことになります。
「これから、給料日に山本くんはケガをして会社に来られないかもしれません。
その際は、私がまた使者としてやってきますので、よろしく頼んます。
彼をクビになんかしないでくださいね。これは法に乗っ取った行動なんですから」

翌日から、顔を腫らした山本クンは出勤し、それこそ黙々と工場で働きます。
そして半月が経ったころ、山本くんはまた会社を休みます。

「すいません。私、工場で働く山本弘くんのアパートで同居する者なんですが」
また、やっかいな者が来たぞと総務の給与担当者がでてきます。
半月ほど前に来た、使者と名乗る男とは別人です。
しかし、同じような身なりから、こいつも金融関係の者と察することができます。
あいつはいったい何社から借金を重ねているんだ、そんなことを思いながら、
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「ですから、山本くんの所で面倒をみてもらってる者です。証明する書面もあります」
「そうですか。………で、どういったご用件で?」
「実は山本くん、ケガをしちゃいまして。病院へ行きたいから、給料日前なんですが、
給料の非常時払いの請求をしようと。半月分の既に働いた分の給与の請求です」

 【非常時払い 労働基準法 第25条】
  使用者は、労働者が出産、疾病、災害、その他厚生労働省令で定める
  非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、
  支払期日前でも、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。


私が将来、マチキンに手を出し、いよいよ首が回らなくなったら、
「使者」の定義を深く学習し、対応策を考えなければと思ってます。
posted by 貞吉 at 19:48| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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