2013年05月13日

レースのカーテン

レースのカーテンを買ってきました。
タバコのヤニで茶色に変色していたので、純白のカーテンに交換です。


さて、総務として会社勤務していた頃です。
東京に住んでいた役員が、単身赴任で会津若松市内に住むことになり、
転居に際し、私が住居の手配と生活用品の取り揃えを任されることになりました。

開け放たれた窓から、爽やかな風が舞い込んでくる。
そんな若葉のころ、新緑の季節でした。

着任してきたばかりの役員のマンションの一室で、
私が買って用意した純白のレースのカーテンを取り付け、
ここで部屋の装飾は、一通り終了ということになりました。
やれやれと私と役員は缶コーヒーを口にします。
そんな穏やかな心地になったとき、爽やかな風が舞い込んできたのです。
「上の階だと、いい風が入ってくるんですね」
私が着任早々の役員に言いました。
「そうだね。やはり東京とは空気が違うな」
そんな役員との、のどかな会話のひと時でした。

さて、爽やかな風で部屋の内側まで押されたレースのカーテンなんですが、
元の自分の位置に戻ってくれないのです。
窓の前の横向きの畳1畳のラインを超え、そこで静止したままなのです。
6畳間の1/3ほどが、レースのカーテンで埋め尽くされる。そんな状態です。
誰が見ても、うっとうしい眺めでした。

動きを止めたレースのカーテンに、キラキラとまばゆい光が降り注ぎます。
しばらくの間、私と役員は、グタっとしたカーテンを無言で見つめていました。
先に何かを言わなければならないのは私なんだろうなと思い、
「すいません。少しカーテンの丈が長かったみたいですね」
当たり前の現状報告をするしかありませんでした。
役員が少し間をあけ無表情で私に言います。
「いいよ。私、あまりこだわる方じゃないから」

風が部屋に吹き込むたびにカーテンを元の位置に戻さなければならない、
あるいは、放ったらかしにしたとして、うっとうしい眺めを我慢しなければならない。
こだわる、こだわらないの問題ではなく、さすがに悪いことをしたなと、
私は思うと同時にカーテンの裾上げのことを考えました。
しかし、3,000円程で買ってきたカーテンの裾直しが1万円ということになったら、
いくら会社の経費とはいえ、個人的に腑に落ちないなと思ったのです。
1万円かかるのかどうか確認はしていませんが、
少なくとも本体のカーテン代以上は取られるはめになると思いました。
なので、
「裾を上げて、ガムテープで固定させちゃいましょうか」
役員になるほどの方ですから、私のこの案を、
こいつにとっては、あくまでも他人事だなと見抜いたことでしょう。
「いや………それは、やめよう。いいよ、このままで。
冬になれば雪が降って、サッシを開けることなんて、そうはないんだろう」
「ええ、まぁ確かに冬になれば、そうなんでしょうけれど」

申し訳ないので次の案を捻り出しました。
おそらく該当者はいないだろうなと思いつつ、
「じゃあ従業員の誰か、あるいは従業員の母親で裾上げのできる者を探して、
見つかったら頼んでみることにしましょうか」
役員になるほどの方ですから、だったら、
買った店に頼めばいいじゃねぇかと、根本を見透かされてしまったことでしょう。

ともかく、役員は「構わないよ」と繰り返し言ってくれたので、
「そうですか」と御言葉に甘えて済ませてしまったわけです。

サッシを開けることは滅多にないだろう冬の期間を除く、春、夏、秋を
この役員は相当なストレスを溜め込んで過ごしたかもしれません。


私の部屋に取り付けた新しいカーテン、丈が長すぎたようです。
風に押された後の部屋の光景を見て思い出した、10年ほど前の話でした。
posted by 貞吉 at 20:03| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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