2008年10月26日

あの人、なんか変

父親の代わりに、ご近所の法事に顔を出してまいりました。

お寺の住職がやってきます。
住職は列席者一同、座布団に正座したのを確認し、読経を始めます。

  観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時般若進来
  照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子
  色不異空。空不異色 色即是空 空即是色


最前列に、なにやら落ち着かない男性がいました。
座りながらモゾモゾ、モゾモゾ。
『始まったばかりなのに、もう、足がしびれたのか?』
暇なのでしばらく読経をよそに、その男性を見ていました。
すると、ハンカチを取り出して汗を拭きだしたのです。
汗をかくほど、室内は暑くなかったはずです。
『あの人………なんか変』 私はそう思いました。


『どうしたんだろうか? 原因は?』
さて、さて、私の悪い癖である妄想が始まります。
ひょっとしたら、あの男性は悪魔に取り憑かれていて、
住職の読経を悪魔祓いの呪文と勘違いをしたのではないか。
メチャクチャな思い込みですが、ふと、そんなことを思ってしまったのです。


最前列にいる落ち着かない男性。
小刻みの震えがだんだんと激しくなっていき、奇妙な声を発します。
「うぅ〜、うぅ〜」
その呻き声は住職の経を読む声にかき消され、誰も気づきません。
「ハァ、ハァ ………く、苦しい〜。苦しいから、やめろぉ〜。 今、すぐやめろぉ〜」
両隣の人が、少し驚いた顔でその男性を見つめます。

「やぁ〜めろ。 早く、やぁ〜めろ。 やかましいのだぁ〜」

両隣の人は、それぞれ左右に少しずつ身をよけます。
住職も気が付き、いったん経を読むのをやめ、そして振り向きます。

「そうだぁ〜。 それでいいのだぁ〜。 分かったかぁ〜。 終わりだぁ〜」
「………………?」
住職は不思議そうな顔で、その男を見つめます。
「見るなぁ〜。 いつまでも、不思議そうな顔して俺を見るなぁ〜」
住職は小首をかしげながら体勢を元に戻し、再び経を読み始めます。

  依般若波羅蜜多故 得阿耨多羅三藐三菩提
  無色無受想行識。無眼耳鼻舌身意
  無色声香味触法。無眼界乃至無意識界

「うぅ〜、うぅ〜、やめろぉ〜。 だから、その呪文はやめろぉ〜」
住職は、そんな言葉を無視し、経を読み続けます。

「ハァ〜! ハァ〜! やめろぉ〜! 呪文をやめろぉ〜!
吐くぞぉ〜! 今すぐやめなければ、緑色のゲロを、この場で吐くぞぉ〜!」
住職は、困ったヤツが来ちゃったなぁ、読経をやめ面倒くさそうに声をかけます。
「これは呪文ではありません。経です。お経です」
「なんでもいいから、やめろぉ〜。 オマエ、いったい何が欲しいのだぁ〜」

「お布施でございます」という言葉を呑み込みます。
少し笑みを浮かべながら、男性に顔を近づけ読経を再開します。

  是無上呪 是無等等呪 能除一切苦
  真実不虚 故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰
  羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦

「なんなんだぁ〜、おまえは。 なにがしたいんだぁ〜。 性格が悪いのかぁ〜。
俺サマを追い払おうとしてもムダだぁ〜。 だから、早くやめろぉ〜!」
「………あなたは何か、勘違いをされている。
私は悪魔祓い、エクソシストなんかではありません。単なる坊主です。
どうか部屋を出られて、あちらで、お一人で遊んでいてくださいな」
「なんだぁ〜? ………エクソシストではないのかぁ〜。 ………そうなのかぁ〜」
「そうです。 私はエクソシストではありません」
「早く言え〜。 それを早く言え〜。 誰だって勘違いをするぞぉ〜」
「だから、苦しむ必要はありません。もし苦しいのなら、あちらの方で緑のゲロを」
「オマエは、一緒に来ないのかぁ〜。 俺サマ、1人で行くのかぁ〜」
「私は、今、忙しいのです」
「そうかぁ〜、忙しいのかぁ〜。 じゃあ、外で待ってるけど、それでもいいかぁ〜」


ここで思わず、自分のおバカな想像に、ふいてしまいました。
咳払いでごまかしたつもりですが、不謹慎極まりません。
『あの人………なんか変』 
周りにいる人から、そう思われたに違いありません。


ちなみに、その最前列の男性、後で言っていましたが、お腹をこわしていたそうです。
「あら、そうでしたの。落ち着かない様子でしたから、どうしたのかなぁと思って。
おトイレに行きたかったんですね。 そういうわけだったんですか」
さて、じゃあ私は………なんて言い訳をすれば、取り繕えたのでしょうか。
何を言ったところで、『この人………やっぱり変』 と思われるに決まってます。
posted by 貞吉 at 16:20| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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