2008年07月11日

気がついてくれよ

日曜日の昼前、学生寮の1階に住む管理人さんから声がかかります。
「パソコンのワードなんだけどさ、どうもうまく表が作れないんだ。
時間があったら、ちょっと来て教えてもらえないかな」
特に何も予定がない山下君は大家さんのリクエストに応えます。

なんてことのない単純な操作なのに、なかなか理解してくれません。
「山下君、ごめんなさいね。ウチの人、物覚えが悪いから大変でしょう」
「いいえ、オバさん、そんなことは。オジさんなりに頑張ってますよ」
「ならいいんだけど。今、牛丼を買ってきたから、熱いうちに食べて」
「すいません。ごちそうになります」
「ウチの人の分と2つ買ってきたけど、山下君のは大盛りになってるから」
「ありがとうございます。気をつかっていただいて」
「いいのよ。それより私、これからちょっと出かけちゃうから、後はよろしくね。
授業料はこの人から、たっぷりもらいなさいよ」
「いいえ、授業料だなんて。さっきから同じことしか教えてませんから」

管理人さんは真剣な顔して、ずーっとパソコンの画面に釘付け。
奥さんが出かけたことさえ気が付いていません。

それから、しばらくして、
「いやいや、やっと分かったよ。山下君、ありがとな」
「いいえ、オジさんちょっとだけ、のみこみが悪いだけですよ」
「そうなんだよな、あとちょっとなんだよな。 
………そこにあるのはなんだ? おっ、牛丼か?」
「ええ、オバさんがさっき買ってきてくれました」
「そうか、そうか。じゃあさっそく食べようよ」
「そうですね。じゃあ遠慮なくいただきます」

管理人さんが牛丼の入った袋をたぐり寄せ、
2段重ねになっている牛丼の1つを取り出し、山下君に渡します。
そして下になっていた牛丼を取り出し、自分の前におきます。

山下君は気が付きます。
『自分が普通盛り、管理人さんが大盛り』

奥さんは、まだ若い自分がたくさん食べるだろうと考えて、
自分のためにわざわざ大盛りを1つ買ってきてくれたはずです。
その大盛りが65歳を過ぎている管理人さんの前に置かれているのです。

頓着しない人って、そういうことに全く気が付きません。
「さぁ、何やってんの。教えてもらったお礼なんだから遠慮なく食べてよ」

山下君。 どうでもいいことじゃないかと思い込もうとするけど、悔しい。

「今日の牛丼はやけに量が多いなぁ」
「………………」
「いやぁ〜、随分と食べごたえがあるよなぁ。なぁ、山下君」
「………………」


管理人さんに自分の犯した過ちを、どうしても気がついてもらいたい。
「いやぁ、そうか。これって大盛りで山下君のだったのか。
ごめん、ごめん。全然気が付かなかったもんだから」
この言葉をもらわないことには、どうにも気がすまなくなります。

山下君は、管理人さんが食べ終わった大盛りの空の器に手を伸ばし、
自分の普通盛りの空の器に重ね入れようとします。
入るわけがないのは分かっています。管理人さんに見せつけているのです。
山下君は、『入らないなぁ。なんで入らないのかなぁ』 そんな顔で作業します。
管理人さんは爪楊枝で歯をシーハーさせながら、ぼうーっと何を言うこともなく、
山下君の動きを見ているのか、見ていないのか。
山下君、今度は管理人さんの大きな器を下にして、
自分の小さな器を入れます。 器はすんなりと収まります。
『あれぇ? なんでだろう。 今度は簡単に入っちゃったぞ』
顔を上げ、管理人さんの顔を敢えて見つめます。
しかし相変わらず爪楊枝でシーハー、歯をほじりながら、
「いいよ、いいよ。置いといてくれれば。後で女房が片付けるから」

『この鈍感ヤロー! さっきからマヌケ面でシーハー、シーハー。おまえはバカか!』
山下君は思いっきり言ってやりたい衝動にかられます。
きっと今、自分は怖い形相に違いない。いらだっている自分が分かります。
でも、管理人さんは相変わらず、どこを見ているのか、
いつまでも爪楊枝でシーハー、シーハーやっているのです。


さて、さて。この後、山下君はどんな気持ちで自分の部屋に戻っていくのでしょうか。
なんともいえぬ、煮えくり返るような思いでいるはずです。



つい最近、事例はもちろん異なりますが、
これと同じような気持ちにさせられたことがあります。 以上です。
posted by 貞吉 at 19:19| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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